コーヒーの美味しさと、歳を重ねることについて
コーヒーが好きだ。
濃いもの苦いものだと、なお良い。
コーヒーの美味しさと、歳を重ねることは似ていると思う。
人生に苦味が増し、それが味わいとなるからである。
いつから好きになったのだろう。
貧乏だった学生の頃。
本当は甘いコーヒーが好きだった。
それに、カフェにいるひとときも好きだった。
本を読みながらコーヒーを飲み、時間を忘れ、自己を忘れ。
とにかくお金がなかった私は、甘いコーヒーなんて、そんなに買い求めることができなかった。
いつも我慢して、ブラック。
とくにブラックが好きなわけでもなく、見栄をはるわけでもなく。
ただ、それでも飲んでいると、少しずつその苦味が身体に染み込んでいく。
香りが身体を包み込んでいく。
そっと。
そしていつの間にか、私はコーヒーの虜になった。
飲んでいると、たまに思い出す。
あの頃の自分。若かった、風がよく吹き抜けていく感覚。
今日のことを考えて精一杯生き、
人生の虚しさと儚さに少しずつ気がつきはじめ、
世に対する憤りや自分の不甲斐なさに、ひしひしと痛みが生まれた。
あの頃を。